診察室から さまざまな背景をもつ患者に寄り添う歯科治療を
「全国の歯科医院の数はコンビニの数より多い」という言葉を耳にしたことがあるかと思います。
現在、歯科界の問題として「歯科医師過剰」を誇張した政策誘導による歯科医師国家試験の合格率の引き下げや、歯科スタッフ(歯科衛生士、技工士、助手)の不足、歯科補綴(ほてつ)材料の金属の高騰といったものが挙げられます。
患者の歯科医療に求めるニーズも多様化し、その変化に順応する必要性が高まっています。虫歯、痛みを取り除くといった治療以外にも、全身疾患を考慮した治療も不可欠です。口のなかの清掃状態をよくすることで防げる、あるいは軽減できる歯周病や歯周病細菌も、誤嚥(ごえん)性肺炎や脳血管疾患、心臓病、糖尿病など、深く全身の病気と関連しています。それに加え噛(か)むことで脳に与える影響が認知症予防につながると言われ、医学的に注目されつつあります。
私は、大学病院補綴科(義歯・クラウンブリッジ科)に在籍していました。歯科医としての経験を重ねていくうちに、接遇を大切に、極力苦痛を最小限に治療を行うことを心がけ、短時間で治療を行うことを重視するようになりました。民医連の事業所では、全身疾患を患っている人、治療不信に陥った人など、さまざまな背景を持った患者が来院します。
ある筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんが、「歯ブラシもできず、口を動かすと粘膜を傷つけ、痛い思いをしている」と、訪問診療の依頼がありました。その人は、口腔(こうくう)ケアに最初は気乗りしない感じで、不快感をあらわにしていました。どのように接すればよいのか…常に考え、接することで治療も積極的になりました。その患者さんが震える手で、「本当にうれしい、明日から苦も無く生きていける」と紙に書かれた時には、やりがいのある充実感を久しく味わうことができました。
患者のおかれている生活背景まで考慮し、寄り添い、何を求め訴えているのか把握できたことは、今後、私の治療指針の糧として励みになりそうです。(友松由次、鹿児島・谷山生協クリニック歯科)
(民医連新聞 第1804号 2024年4月15日号)